書評「百年たっても後悔しない仕事のやり方」


 著者の存在はうっすら知ってはいたが、自らがかつて所属した組織に反旗を翻した、という印象があり敢えて著作を手に取ることはなかった。
しかし最近、小飼弾氏がブログで 『「上司にするなら誰がいい」という問いに対して私が具体名を上げることができる唯一の人である』 と紹介していて著者に興味が湧いた。
加えて「百年たっても後悔しない仕事のやり方」とはいかなるものか。
それがこの本を読むきっかけだった。。

 読後感を一言で言うと、「さらっとしてるが深みのある純米大吟醸の味わい」という感じ。
フルーティーで口当たりがよくついつい杯を重ねてしまう。さっぱりしているが実はアルコール度数は高い。

 取り上げているテーマは決して軽くはない。
会社選び、組織、仕事の目的、仕事の現実、仕事の相手、成功と失敗、海外、など、どれも悩みどころ満載なテーマだ。
しかし著者はそれらをさらりと語っていく。
ベンチャー企業の創業者にありがちな近寄りがたい熱さやアクの強さを微塵も感じさせない。

 どうしたらこうなれるのだろう。
私は40代後半。仕事のことで日々悶々とすることも多い。なかなかこういう境地にはなれない。
 たどり着いた答えは、著者はきっと人間が好きなんだろう、ということだ。
歴史が好きなのもきっとそれが人の営みの積み重ねだからではないだろうか。
人間には自分自身も含まれる。
そうやって自分自身も他者も過去も現在も自然体で受け入れて、そこを出発点として未来に目を向けている。

 「常識は疑え」というが、常識を疑う自分自身を信じられなければ新たな答えにはたどり着けない。
トレードオフする事象からどちらかを選び出す自分を信じられなければ次への一歩は踏み出せない。
自分自身を信じる力と勇気。
それが他者を尊重し愛する力にもなるような気がする。

 著者の仕事のやり方の中で私が最もハッとさせられたのは「誘われたらどこにでも行く」というルールだ。
これは私にとっては簡単なことではない。
しかし身構えてばかりでは未来は広がらない。
いろいろ欠点のある私自身だが、難しいことは考えず、自分を信じ、他者を信じ、出会いを楽しんだらいいじゃないか、と思わせられた。

 この本には他にも多くの気付きを頂いた。
 座右の書として今後も折に触れ紐解きたい一冊である。